東京大学産婦人科学教室の教室員の皆さんへ
新型コロナウイルスのパンデミックは世界を一変させました。
我が国では未だコロナ禍が収まらず、東京オリンピックまで後2か月を切りました。この未曽有の事態は多くの人々に様々な形で苦しみ、困難をもたらしています。
教室員の皆様にはコロナ対応に頑張っていただき、自分の診療科の枠を超えたご協力もいただき感謝しています。このような災禍ではありますが、最近はポストコロナの時代に向けた胎動がしっかりと感じられるのも事実です。皆さんもそれを感じることがあるのではないでしょうか。
歴史を振り返ってみますと、様々な困難を乗り越えて社会は発展してきました。我が国の現代史においては、第二次世界大戦の戦後の焼け跡から我が国は奇跡の復興を成し遂げました。
当教室の歴史を紐解きましても軍隊から復員され医師となられた先生は何人もおられ、医療・医学の発展に貢献されています。
当教室名誉教授(教授在任1970-1984)の坂元正一先生は海軍出身でした。海軍のリベラルな気風、紳士たる態度、国際性などを教室に持ち込まれたと聞いています。
現在、教室内に目に見える形として残されているものとして、英訳された「五省(ごせい)」がCRC-A7階の会議室に掲げられています。「五省」は旧海軍のスーパーエリート養成校である海軍兵学校において用いられた五つの訓戒です。毎晩、当番の学生が発唱し、各自が心の中で反省したとのことです。現在も海上自衛隊の幹部候補生学校に継承されています。
当教室に掲げてあるのは、戦後来日した米軍将校が感銘してアナポリス海軍兵学校に持ち帰る際に英訳させた英語版の五省です。貫録をもたせるためか英文古語で訳されています。会議室に入ったときには是非見てください。
日本語では次のようになります。
一、至誠に悖(もと)る勿(な)かりしか
(誠実さや真心、人の道に背くところはなかったか)
一、言行に恥づる勿かりしか
(発言や行動に、過ちや反省するところはなかったか)
一、氣力に缺(か)くる勿なかりしか
(物事を成し遂げようとする精神力は、十分であったか)
一、努力に憾(うら)み勿なかりしか
(目的を達成するために、惜しみなく努力したか)
一、不精に亘る勿なかりしか
(怠けたり、面倒くさがったりしたことはなかったか)
どうでしょうか。
社会人として生きる姿勢、臨床に取り組む姿勢、研究に取り組む姿勢のいずれにも当てはまる自己への訓戒と思います。この精神は当教室においても引き続き大切にしたいと思います。
日本は昭和の時代には戦後の復興を経て経済成長を突き進みました。
平成の時代にはバブル崩壊、経済の停滞という荒波を何とか乗り越えて新たな社会へ進もうと努力してきました。
今はコロナ禍で皆が大変な思いをしていますが、新しい豊かな社会を作っていくのが令和の時代で、その主人公が私より若い教室員の皆さんです。私たちの東京大学産婦人科学教室においても力強い発展を期待しています。
令和の中興が存在するかはわかりませんが、激変する現状を的確に捉えて皆で教室をより良くするために新たな取り組み(新政)を進めていければと思っています。
その土台となるのが10個のキーワードです。
今年の新年にお披露目させていただき4月にはTOGカードとして皆さんにお配りしました。
五省にある崇高な精神性とは別の観点から作成されており、教室と皆さんのお仕事にとても大切なものです。
皆さん日々忙しく心の中で反省する時間もないかとは思いますが(働き方改革は進めます!)、たまにはTOGカードを取り出してみてください。
参考:五省は現在放映中の北川景子主演の民放ドラマの中でも出てきました。