採卵・体外受精・顕微授精
体外受精は、採卵により卵巣から取り出した卵子を、体外で精子と受精させ、胎児のもとである「胚」を獲得するための治療です。1978年にイギリスで初めて体外受精児が誕生して以来、全世界に急速に普及し、日本でも年間約60600人(2019年現在)の赤ちゃんが体外受精・胚移植および凍結胚融解胚移植により誕生しています。体外受精は自然妊娠と比べて児の異常が起きる確率に大きな差はないとされていますが、まだ開発されて40年程度の治療法であるため、今後もさらなる検討が必要であると考えられています。 卵管が閉塞している・もしくは機能していない場合や、精子の数や運動率が不十分であり人工授精では妊娠しない場合、また他の不妊治療で妊娠に至らない場合に体外受精を行う事があります。
体外受精で胚を獲得するためには、大きく分けて3つの段階があります。
① 卵巣で成熟した卵子を育てる(排卵誘発)
通常の月経周期では、主席卵胞のみが排卵するため、成熟した卵子は1回の月経周期で1個程度のみです。しかし、体外受精のサイクルでは、排卵誘発薬を内服・注射などの形で投与し卵巣を刺激する事により、成熟した卵子を複数育てることで、コンディションの良い胚を獲得する可能性を高めます。 通常卵子の成熟・排卵のためには脳の視床下部と下垂体の連携により分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)という2つの主要なホルモンが必要となります。体外受精での卵巣刺激では、FSH/LHなどを含む注射薬(hMG製剤・精製FSH製剤・遺伝子組換型FSH製剤)や、下垂体からのFSH/LHの分泌を促す内服薬(クロミフェンクエン酸塩製剤、レトロゾールなど)などを用いて卵胞を育てます。また、発育途中で卵子が排卵してしまう事を抑えるために、GnRHアゴニストやGnRHアンタゴニストという薬を併用し、卵胞が十分に育つまで観察を続けます。 さらに、卵胞が充分に発育した時点でHCG注射などにより排卵を促し成熟させ、実際に排卵が起きる直前に「採卵」し卵子を回収します。 卵巣の刺激方法には、使用する薬剤の種類や投与法によりアゴニスト法(ロング法・ショート法)やアンタゴニスト法、クロミッド法などの方法がありますが、卵巣機能や合併症などを考慮した上で患者様に適した方法を選択します。 排卵誘発中には卵胞の発育を観察するために、外来での超音波検査・採血などでのモニタリングが必要となります。また注射薬に関しては当院外来での投与や、自己注射・患者様のお近くの病院での処置などで投与を進めていきます。
② 卵子を採卵手術で体外へと回収する(採卵)
経腟超音波で卵胞を観察しながら、静脈麻酔(点滴で鎮静剤や痛み止めを使用して、眠っている状態にする麻酔)や局所麻酔(腟の中に局所麻酔を注射して痛みをとる方法)を使用した上で、細い針で卵巣を刺し卵胞液を吸引し、その中にある卵子を採取します。大きな子宮筋腫がある場合など、経腟超音波での採卵が困難な場合は、お腹の上からの採卵を検討する場合もあります。採卵は、日帰り入院で行っております。
③ 卵子を精子と受精(体外受精)させ培養する
採卵で回収した卵子は、精子と受精させ胚へと育てます。採卵当日に精子を持参して頂きます。(場合によっては採精室で精子を採取して頂くことや、凍結精子を使用する場合もあります。)受精の方法は主に、媒精と顕微授精の2つの種類があります。
・媒精
濃度などを調整した精子を卵子の入った培養液にふりかけ、受精を待ちます。
・顕微授精
受精卵を得るために卵子を顕微鏡で観察しつつ、精子を卵子の細胞質内に注入する治療法です。媒精では受精率が悪い・受精障害がある・受精できないほどの極度の精子減少症がある場合などに用いられる方法です。媒精と顕微授精とを比較した場合、現時点では出生児への悪影響を認めたという明らかな報告はありません。ただ、男性不妊が次世代へ伝播するなどの遺伝的リスクの可能性は考えられ、今後のさらなる研究が必要であると考えられます。(また当日の精子初見が悪く媒精で受精が望めないと考えられた場合、顕微授精が必要になる場合があります。)
これらの方法により獲得された受精卵をどのように保存し、またその後子宮に戻しているのかについては、胚凍結・胚移植のページをご覧ください。
・媒精
濃度などを調整した精子を卵子の入った培養液にふりかけ、受精を待ちます。
・顕微授精
受精卵を得るために卵子を顕微鏡で観察しつつ、精子を卵子の細胞質内に注入する治療法です。媒精では受精率が悪い・受精障害がある・受精できないほどの極度の精子減少症がある場合などに用いられる方法です。媒精と顕微授精とを比較した場合、現時点では出生児への悪影響を認めたという明らかな報告はありません。ただ、男性不妊が次世代へ伝播するなどの遺伝的リスクの可能性は考えられ、今後のさらなる研究が必要であると考えられます。(また当日の精子初見が悪く媒精で受精が望めないと考えられた場合、顕微授精が必要になる場合があります。)
これらの方法により獲得された受精卵をどのように保存し、またその後子宮に戻しているのかについては、胚凍結・胚移植のページをご覧ください。
体外受精での重要な合併症
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤の副作用であり、卵巣の腫れ・血管内脱水が起こる病気であり、増悪時には血栓塞栓症や多臓器不全なども起こりうる重大な疾患です。特に採卵個数の多かった方や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方ほど発生しやすくなります。 排卵誘発剤使用中、もしくは採卵終了後に、お腹が張る/痛む・呼吸が苦しい・尿量が減った・体重が2kg以上増えたなどの症状があれば、OHSSを疑う必要があります。 - 血栓塞栓症
排卵誘発剤の使用前のピルの内服や、排卵誘発による高エストロゲン状態により、血栓塞栓症が起こる事があります。これは足などの太い静脈に血液の塊(血栓)ができる病気です。重症になった場合、この血栓が肺動脈につまり肺塞栓症という病気を発症する事もあります。 治療中に足の強い痛み/腫れ・息苦しさ・胸の痛みなどがあればすぐにご連絡下さい。 - 骨盤腹膜炎
採卵の合併症として、細菌がお腹の中に感染を起こす骨盤腹膜炎があります。重症な骨盤腹膜炎を発症した場合には入院し抗生剤の投与や、手術で膿を取り除く治療が必要な可能性があります。予防のためにあらかじめ抗生剤を投与します。(当院での発生頻度は1%以下と推定されます。) - 臓器損傷
採卵には細心の注意を払いますが、血管・腸管・膀胱損傷などが起こる可能性があります。実際に、このような合併症が起きることは稀ですが、リスクが高くて採卵できない、という状況になることはあります。実際に、このような合併症が起きた際には、入院や手術による治療が必要になる可能性があります。
IVF(体外受精)をご希望の方は、
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