絨毛性疾患とは
胎盤栄養膜細胞(トロホブラスト)の異常増殖をきたす疾患です。
この細胞成分は、もともとは妊娠時の胎盤をつくるもののひとつですが、この細胞が異常増殖することで絨毛性疾患が発症します。絨毛性疾患は初期妊娠異常である胞状奇胎と、腫瘍性病変に分類される侵入奇胎、絨毛癌、さらに稀な腫瘍である胎盤部トロホブラスト腫瘍(PSTT)、類上皮性トロホブラスト腫瘍(ETT)、存続絨毛症にわけられます。
胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛癌について病気とその治療について概要を記します。
この細胞成分は、もともとは妊娠時の胎盤をつくるもののひとつですが、この細胞が異常増殖することで絨毛性疾患が発症します。絨毛性疾患は初期妊娠異常である胞状奇胎と、腫瘍性病変に分類される侵入奇胎、絨毛癌、さらに稀な腫瘍である胎盤部トロホブラスト腫瘍(PSTT)、類上皮性トロホブラスト腫瘍(ETT)、存続絨毛症にわけられます。
胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛癌について病気とその治療について概要を記します。
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分類
- ①胞状奇胎
②侵入奇胎
③絨毛癌 choriocarcinoma
妊娠性絨毛癌
(非妊娠性絨毛癌)
④胎盤部トロホブラスト腫瘍 placental site trophoblastic tumor (PSTT)
⑤類上皮性トロホブラスト腫瘍 epithelioid trophoblastic tumor (ETT)
⑥存続絨毛症 persistent trophoblastic disease
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①胞状奇胎トロホブラストが異常増殖することにより、妊娠初期に子宮内にぶどうの房状の構造がみられる疾患です。妊娠成立時の受精の異常によっておこるもので、妊娠初期に超音波検査をきっかけに診断されることが多いです。性器出血や腹痛・つわりなどの症状がみられることがあります。頻度としては、約500妊娠に1回と言われています。
妊娠初期の診察で異常を指摘された場合や、性器出血などの症状がみられた場合に、超音波で詳しく検査をおこないます。
超音波検査で子宮内にブツブツとした所見がみられないか、血液検査でhCGというホルモンが異常に高い値を示さないか、確認をします。胞状奇胎の可能性が高いと考えた場合は子宮内容除去術という手術をおこないます。子宮内の病変を可能な限り除去し、それを病理検査に提出します。病理検査では、胞状奇胎と流産の区別や、胞状奇胎の中でも全胞状奇胎なのか部分胞状奇胎なのかという分類をおこないます。
経過によっては手術の約1週間後に2回めの子宮内容除去術をおこなうことがあります。
胞状奇胎の基本的な治療は子宮内容除去術ですが、治療後にhCGのホルモン値が順調に下がらない場合や、治療後に侵入奇胎や絨毛癌などの別の疾患を発症することがあるため、定期的な通院が必要です。
約1年間は妊娠を避けていただき、5年間までは定期的に通院をしていただきます。通院中は血液検査でhCG値を確認し再上昇がみられないか確認します。
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②侵入奇胎胞状奇胎の治療後に発症します。発症リスクは全胞状奇胎で10-20%、部分胞状奇胎で1-2%です。
子宮だけではなく、肺などの臓器にも病変がみられることもあります。性器出血などの症状がみられる場合もありますが、症状がないこともあり、血液検査でhCG値が高いことだけが診断のきっかけとなることもあります。
侵入奇胎に対しては原則として化学療法がおこなわれます。メトトレキサート、またはアクチノマイシンDという薬剤を1種類のみ用いた化学療法をおこない、ほぼ100%の方が化学療法のみで治癒します。治療後も定期的通院が必要です。
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③絨毛癌侵入奇胎と同様に子宮内だけでなく、肺などの遠隔臓器にも転移がみられ、脳や肝臓などの臓器にも転移することがあります。絨毛癌は胞状奇胎(異常妊娠のひとつ)の後で発症することも多いですが、正常の妊娠・分娩や流産の後でも発症します。
性器出血以外にも咳などの呼吸器症状や頭痛、意識障害など様々な症状をきっかけに診断されることがあります。血液検査でhCG値を確認するのとあわせて、骨盤部のMRI検査や全身の造影CTをおこない病気の拡がりを確認します。
治療はやはり化学療法ですが、絨毛癌では多剤併用化学療法が必要です。EMA/CO療法(エトポシド、メトトレキサート、アクチノマイシンD、シクロフォスファミド、ビンクリスチンの5剤を併用する治療)が多く使われていますが、治療の副作用なども考慮して患者さんごとに最適なものを選択します。
子宮肉腫とは
悪性腫瘍のうち、筋肉や脂肪などの軟部組織や骨から発生する悪性腫瘍のことを肉腫と呼びます。
同じ子宮から発生した悪性腫瘍でも、子宮体癌や子宮頸癌は子宮の表面を覆う上皮細胞から発生するのに対して、子宮肉腫は子宮の筋肉から発生するもので、病気の進み方や治療への反応がことなります。
悪性腫瘍の中でも稀な腫瘍で、また多種多様であることが特徴です。
肉腫は全身の様々な部位に生じる病気ですが、婦人科で頻度が高いのは子宮肉腫です。
子宮体部悪性腫瘍全体の4-9%とされており稀な疾患のひとつです。病理所見により、平滑筋肉腫、子宮内膜間質肉腫、腺肉腫、癌肉腫などに分類されます。
子宮肉腫は子宮体癌とは病気の進行や化学療法の効果の程度が異なるため、子宮体癌とは異なる方法で治療をおこないます。例外として、子宮癌肉腫は子宮体癌と由来や性質が似ているとされており、子宮体癌に準じた治療がおこなわれます。
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症状
- 腹痛、腹部膨満感や性器出血などがありますが、症状がないこともあります。
発症年齢として最も多いのは50歳台〜60歳台頃です。
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検査
- 血液検査、骨盤部MRI検査、全身CT検査などをおこないます。良性の腫瘍である子宮筋腫と区別することは重要ですが、実際には良性の子宮筋腫か悪性の子宮肉腫かを正確に区別することは非常に難しく、どちらの可能性もありえることを念頭に治療方針を考えていくことも多いです。
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分類
- 以下に分類されます
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平滑筋肉腫(Leiomyosarcoma, LMSと表記することがあります)子宮肉腫の中で最も頻度が高いものです。症状や診察所見は良性の子宮筋腫と似ていることも多く、発症年齢としては閉経後にみられることが多いです。急速に増大することが特徴で、診断時には遠隔転移がすでに存在することや、手術後に再発することも珍しくありません。治療としては原則として手術をおこない、リンパ節郭清はおこなわないことが多いです。手術での治療が難しい場合には化学療法や放射線療法をおこないますが、その効果はそれほど芳しいものではありません。
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子宮内膜間質肉腫(Endometrial stromal sarcoma)子宮肉腫全体の20%程度を占めるもので、低異型度子宮内膜間質肉腫、高異型度子宮内膜間質肉腫、未分化子宮肉腫の3者に細分類されます。
低悪性度子宮内膜間質肉腫(Low-grade endometrial stromal sarcoma, LG-ESSと表記することがあります)は、閉経前の女性に比較的ゆっくりと進行することが特徴です。手術治療がまず選択される点は平滑筋肉腫と同様ですが、経過によってはホルモン治療をおこなうことがあります。
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高異型度子宮内膜間質肉腫(High-grade endometrial stromal sarcoma, HG-ESSと表記することがあります)50歳以後に発症することが多く、病状の進行が早いことが特徴です。未分化子宮肉腫(Undifferentiated uterine sarcoma, UUSと表記することがあります)も閉経後に発症することが多く、病状の進行が早いため診断時にすでに進行した状態であることも多いです。いずれも手術を中心とした治療をおこないますが、治療成績は良くないのが現状です。術後に化学療法や放射線治療をおこなう場合もありますが、ホルモン治療をおこなうことは少ないです。
I期 腫瘍が子宮に限局するもの
ⅠA期;腫瘍サイズが5センチメートル以下のもの
ⅠB期;腫瘍サイズが5センチメートルを超えるもの
II期 腫瘍が骨盤腔に及ぶもの
ⅡA期;付属器浸潤があるもの
ⅡB期;その他の骨盤内組織へ浸潤するものIII期 腫瘍が骨盤外へ進展するもの
ⅢA期;1部位
ⅢB期;2部位以上
ⅢC期;骨盤リンパ節ならびに・あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるものIV期 IVA期;膀胱粘膜ならびに・あるいは直腸粘膜に浸潤のあるもの
IVB期;遠隔転移のあるもの
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治療
- 基本的には手術による治療をおこないます。術式としては子宮摘出と両側付属器切除(左右の卵巣・卵管を摘出)をおこないます。子宮内膜間質肉腫では、リンパ節生検などをおこなうこともあります。平滑筋肉腫では一般的には術後治療はおこないませんが、子宮内膜間質肉腫では術後に化学療法やホルモン療法をおこなう場合があります。
化学療法やホルモン療法に関しては、子宮肉腫のうちのどの分類に該当するかにより異なってきます。低異型度子宮内膜間質肉腫ではホルモン療法をおこなう場合があります。
一方、それ以外の肉腫である平滑筋肉腫、高異型度子宮内膜間質肉腫、未分化子宮肉腫はホルモン療法をおこなうことは少なく、状況によっては手術と化学療法や放射線療法などを組み合わせて治療をおこないます。
- 子宮肉腫に対する化学療法の具体的な内容について説明します。
平滑筋肉腫に対して最も効果の高いとされる薬物療法として、DG療法(ドセタキセル・ゲムシタビン療法)とアドリアマイシン単剤治療(薬剤名:ドキソルビシン塩酸塩)があり、DG療法は2種類の抗がん剤の点滴投与を併用しておこなう治療で、アドリアマイシン単剤治療は1種類の薬剤の静脈内注射投与による治療です。
いずれも治療効果は同等とされていますが、副作用などを考慮してアドリアマイシン単剤治療を選択することが多いです。
これらの治療では骨髄抑制(貧血、白血球減少、血小板減少)、間質性肺炎や心毒性などの副作用がおこることがあり、よく理解した上で治療を始めることが重要です。
2010年以後に使用可能となった新しい治療薬として分子標的治療薬であるヴォトリエント、ヨンデリス、ハラヴェンがあります。
子宮肉腫で治療に使用する薬剤薬剤名(販売名) 薬剤名(一般名) 作用 投与法 ゲムシタビン塩酸塩 ジェムザール
ゲムシタビンなど代謝拮抗 点滴投与 ドセタキセル タキソテール
ドセタキセルなど微小管作用 点滴投与 ドキソルビシン塩酸塩 アドリアシン
ドキソルビシン塩酸塩などトポイソメラーゼⅡ阻害 静脈内注射 パゾパニブ塩酸塩 ヴォトリエント 選択的チロシンキナーゼ阻害 内服 トラベクテジン ヨンデリス ヌクレオチド除去修復機構の抑制、
相同組換え経路の制御など点滴(24時間、中心静脈より) エリブリンメシル酸塩 ハラヴェン 微小管阻害 静脈内注射
- これらの薬剤は前述のDG療法やアドリアマイシン単剤治療により効果が期待できない場合に投与をおこなうことがありますが、それぞれに投与法や副作用などが異なるため、病状にあわせてどの薬剤を使用するか検討することが必要です。
- 子宮肉腫の治療において、再発した場合などは上記のような治療を組み合わせておこないますが、適した治療がなかなか見つからない場合も多くあります。当院では、再発した場合には積極的にがん遺伝子パネル検査をおこなっています。
がん遺伝子パネル検査は次世代シークエンサーという新しい技術を応用した検査で、がん組織において存在する多数の遺伝子変異を一括して調べることができます。再発時に最適な治療がみつからない場合に、この検査をおこない遺伝子変異について調べることで、一般的に用いられる薬剤以外で有効な薬剤の候補がないかを検討することができ、検査の結果によっては治験などに参加する選択肢が得られることもあります。
遺伝子パネル検査で得られる所見は複雑で解釈するのが難しいこともありますが、当院では専門チームにより結果を十分に議論し、得られた内容を担当医から丁寧にわかりやすくお伝えしています。
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